「いつか自分のお店を持ちたい」――飲食店の開業を夢見る人はたくさんいます。でも、銀行の融資審査の現場から見ると、残念ながら通らない計画書のほうが圧倒的に多いのが現実です。
「なぜ融資を断られたのか」「何を準備すれば審査が通るのか」――この記事では、銀行の融資審査の視点から、事業計画書で本当に見られているポイントと、よくある落ちるパターンを具体的に解説します。
「事業計画書の書き方」は検索すれば山ほど出てきます。でも、銀行がその計画書を読むとき、実際に何を考えているかを教えてくれる情報は少ない。この記事ではそこにフォーカスします。
銀行はまず「この人に貸して大丈夫か」を見ている
事業計画書というと、どうしても「書類の書き方」「数字の作り方」に意識が向きがちです。でも、銀行の担当者が計画書を手にしたとき、最初に確認しているのは数字ではありません。
「この経営者は、現実を正しく見えているか」――これが一番最初に確認していることです。
飲食店の開業融資は、実績がない段階でのお金の貸し出しです。過去の決算書で返済能力を証明できない分、銀行は経営者の思考力・準備力・リスク感覚を計画書から読み取ろうとします。
どれだけ美しい書式の計画書でも、「この人は本当にわかってお店を出そうとしているのか?」という疑念が生じた時点で、審査は厳しい方向に傾きます。
「通らない計画書」によく見られる5つのパターン
実際の融資相談の現場では、似たような落とし穴にはまっている方が繰り返し現れます。代表的な5つのパターンを紹介します。
① 融資の内諾前に物件を契約してしまっている
「物件が見つかったので、すぐに融資をお願いしたい」という相談は少なくありません。でも実は、融資の内諾を得る前に物件の賃貸借契約を結んでしまうのは、審査上かなり不利です。
銀行からすると、「融資が通るかどうかもわからない段階で契約を結ぶ判断をする人」という評価になります。事業で必要なのは「見通しを立ててから動く力」です。融資が通らなければ毎月の家賃だけが発生し、資金は消えていく。その最悪シナリオを想定できていない、と受け取られてしまいます。
物件探しと融資の相談は並行して進め、必ず「融資の目途が立ってから契約」の順番を守ってください。
② コンセプトが「みんなに美味しいものを食べてほしい」
開業の動機として「料理が好きだから」「美味しいものをみんなに食べてほしいから」という言葉は、気持ちとしては十分理解できます。でも、銀行担当者の立場から言えば、これはコンセプトではありません。
銀行が知りたいのは「誰に」「何を」「なぜあなたが」提供するのか、という話です。「誰でもいいから来てほしい」という店は、言い換えると「誰に向けた店かわからない店」です。競合と何が違うのか、なぜここに出店するのか、ターゲット層はどういう人なのか――これが言語化できていない計画書は、説得力を持ちません。
「地元の食材を使い、子育て世代の女性が平日のランチに気軽に来られるカフェ」のように、ターゲットと差別化の軸が明確であることが最低条件です。
③ 業界未経験なのに軽い動機で開業しようとしている
「少し飲食店でアルバイトをしたことがある」「料理を作るのが趣味」「定年後に夢だったカフェを開きたい」――こうした相談も実際によくあります。
夢を持つこと自体は素晴らしいことです。ただ、銀行が懸念するのは「飲食業の厳しさをどこまでリアルに理解しているか」という点です。飲食店は廃業率が高い業種のひとつです。「好きだから」「やってみたいから」だけでは、銀行は返済の根拠を見出すことができません。
未経験から開業するなら、どこかで一定期間の実務経験を積んでから計画書を作成するか、少なくとも「業界の現実を数字で把握していること」を計画書の中で示す必要があります。
④ 売上計画に根拠がなく、都合のいい数字が並んでいる
「月商200万円を目指します」という計画書は多いのですが、その根拠として「席数30席×客単価2,000円×回転1.5×25日」のような計算式が示されていても、「なぜその回転数が実現できるのか」の説明がないと意味がありません。
銀行担当者はその数字が「希望」なのか「根拠のある見通し」なのかを見分けます。競合店の状況、立地の人通り、近隣の購買層データ、同業態の平均的な客単価と回転数――こうした外部データや調査結果に基づいた売上根拠が示せて初めて、計画書は「信頼できる数字」に見えます。
⑤ そもそも事業計画がない(または直前に作った)
「いくら借りられますか?」という問い合わせから始まる相談があります。計画書もなく、資金の使い道もぼんやりとしか決まっていない状態です。
銀行への融資相談は「いくら借りられるか」ではなく、「何のために・いくら必要で・どう返すか」を伝える場です。この順番が逆の方は、まだ計画が固まっていない段階にあります。そのまま申し込んでも、審査は前に進みません。
「数字が整っていれば通る」は誤解――銀行が本当に読んでいるもの
ここで、少し別の角度からお話しします。
以前、ある高級中華料理店の融資相談に関わったことがあります。その店は、財務的にはすでに資金繰りが相当厳しい状況にありました。ところが、オーナーシェフは高いプライドを持っており、経営状態が悪化しても高級食材の仕入れをやめない。経理担当者がどれだけ反対しても、上海蟹を大量に仕入れ続ける。
やがて本店の資金繰りがいよいよ行き詰まると、今度は観光地での新店舗出店計画を打ち上げてきました。「新しい柱を作れば立て直せる」という発想です。しかし結果は半年も持たずに破綻しました。
このエピソードで伝えたいのは、経営者が現実を直視できているかどうか、銀行はそこを見ているということです。財務数字が苦しいときに、なぜ苦しくなったのかを分析せず、別の投資で突破しようとする思考パターン。これは開業時の計画書にも同じように現れます。
リスクをちゃんと書いているか。悪いシナリオを想定しているか。「うまくいかないときどうするか」を具体的に考えているか。銀行は計画書から「この経営者は厳しい現実に向き合える人か」を読もうとしています。
審査を通過する事業計画書の5つのポイント
では、通る計画書はどこが違うのか。銀行が評価する計画書に共通する要素を整理します。
| ポイント | 銀行が確認していること |
|---|---|
| コンセプトの明確さ | 誰に・何を・なぜあなたが、が一言で言えるか |
| 売上根拠の具体性 | 希望ではなく、調査データや競合比較に基づいた数字か |
| 費用計画のリアリティ | 原価率・人件費・家賃比率が業界水準から外れていないか |
| 返済余力の見通し | キャッシュフローから返済額を無理なく捻出できるか |
| リスク対策の記載 | 売上減・競合出現・コスト増などの悪シナリオと対応策があるか |
特に重要なのが返済余力の部分です。銀行が最終的に確認したいのは「毎月の返済額を、事業の利益からきちんと払い続けられるか」という一点です。
返済の原資となるのは「経常利益+減価償却費」(いわゆるキャッシュフロー)です。この金額が年間の返済額を上回っていることが、計画書に求められる最低ラインです。売上の数字が大きくても、費用が膨らんでキャッシュフローが残らなければ、銀行は「返せない」と判断します。
自己資金の準備は「姿勢を見せる」意味もある
融資を申し込む際、自己資金をどれだけ用意しているかは、審査の重要な要素のひとつです。一般的に必要資金の20〜30%以上を自己資金で賄えることが望ましいとされています。
自己資金が少ない、あるいはほぼゼロという状態で「全額融資してほしい」という相談は、銀行からすると「自分ではリスクを取らずに、すべてを銀行に負担させようとしている」と映ります。
自己資金は単なる金額の問題ではなく、「この事業にどれだけ本気で向き合っているか」を示す指標でもあります。開業に向けてコツコツと貯めてきた経緯があれば、それ自体が準備力と計画性の証明になります。
日本政策金融公庫の活用も視野に入れておく
飲食店の開業融資を検討する際、日本政策金融公庫(日本公庫)は民間銀行より先に相談すべき選択肢のひとつです。
日本公庫は政府系の金融機関で、創業間もない事業者や担保・保証人がない事業者でも利用しやすい制度が整っています。民間銀行では断られるケースでも、日本公庫なら通ることがあります。また、日本公庫で実績を作ってから民間銀行に相談するという流れが、開業初期の資金調達では現実的です。
日本公庫には「創業計画書のフォーマットと記入例」が公開されており、動画解説もあります。はじめて計画書を作る方はまずここから確認することをおすすめします。
まとめ|事業計画書は「夢の設計図」ではなく「現実の説明書」
📋 この記事のポイント
- 銀行は計画書の数字より先に、「この経営者は現実を正しく見えているか」を確認している
- 融資の内諾前に物件契約するのは、計画性のなさを示してしまうリスクがある
- 「美味しいものを食べてほしい」はコンセプトではない。誰に・何を・なぜあなたがが必要
- 売上計画は「希望の数字」ではなく、市場調査や競合データに基づく根拠が必要
- 返済の根拠は「経常利益+減価償却費」がベース。この数字が返済額を上回っているか
- リスクシナリオと対策を書くことで、現実を直視できる経営者だと伝わる
- 自己資金は金額だけでなく、本気度と準備力の証明でもある
飲食店開業の夢を持つことは素晴らしいことです。ただ、銀行はその夢に投資するわけではなく、「返せる根拠があるか」を見て融資を判断します。夢を語る前に、現実の数字をしっかり積み上げること。それが、審査を通過する事業計画書の本質です。
計画書を丁寧に作り込む過程で、自分のビジネスの弱点が見えてくることもあります。それ自体が、開業後に生き残るための準備になります。焦らず、しっかりと地に足のついた計画を作ってください。



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