「決算は黒字なのに、なぜ融資を断られたんだろう」
融資の相談を受けていると、こうした疑問を持つ経営者の方に何度もお会いしてきました。
結論から言ってしまうと、銀行は損益計算書の利益より、”お金の動き”=キャッシュフローを重視して審査しています。利益が出ていることと、返済できることは、銀行の目にはまったく別の話として映ります。今回はその理由を、できるだけわかりやすくお伝えします。
「黒字倒産」は珍しくない、という現実
帳簿上は黒字なのに倒産する──いわゆる「黒字倒産」は、実は中小企業に決して珍しくない現象です。
たとえば、こんなケースを考えてみてください。売上が好調で在庫も増え、売掛金の残高も膨らんでいる。決算書を見ると利益も出ている。ところが、実際の銀行口座にはほとんど現金が残っていない。
この状態で月末の給与支払いや借入の返済期日が来たとき、何が起きるか──。払えなければ、それが倒産の引き金になります。
「利益が出ている=経営が安全」ではない。これが、銀行がキャッシュフローに注目する根本的な理由です。
売上と現金は、なぜズレるのか
売上は「商品やサービスを提供した時点」で計上されます。しかし実際にお金が入ってくるのは、売掛金が回収されたときです。
たとえば、月末に大口の売上が立ったとしても、入金が翌月末や翌々月であれば、その間は現金が手元にありません。売上が増えれば増えるほど、売掛金も在庫も膨らみ、むしろ資金繰りが苦しくなる──これが、成長期の中小企業が陥りやすい落とし穴です。
売上と現金の動きは、常に一致しない。この認識が、資金繰りを考えるうえでの出発点になります。
銀行が特に重視する「営業キャッシュフロー」とは
キャッシュフローには、大きく3つの種類があります。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| ✅ 営業キャッシュフロー | 本業の活動で生まれたお金の増減 |
| 投資キャッシュフロー | 設備投資や資産売却などによるお金の動き |
| 財務キャッシュフロー | 借入・返済・増資などによるお金の動き |
このうち、融資の返済原資として銀行が最も重視するのが「営業キャッシュフロー」です。本業でしっかりお金を生み出せているかどうか──ここがプラスでなければ、借りたお金を本業で返せているとは言えません。
銀行の内側から見ると、営業キャッシュフローがマイナスの会社への追加融資は、審査のハードルが一気に上がります。「本業で稼げていない会社にお金を貸しても返ってこない」というのが、審査担当者の正直な感覚です。
「利益+減価償却費」でざっくり把握できる
キャッシュフロー計算書を作成していない会社でも、営業キャッシュフローの概算は簡単な式で把握できます。
営業キャッシュフローの目安 = 税引後利益 + 減価償却費
※ キャッシュフロー計算書がなくても、決算書から計算できます
なぜこの式が使えるのか。減価償却費は、機械や建物などの価値が少しずつ減少する分を費用として計上するものです。実際には「その期にお金が出ていくわけではない」費用なので、利益にこの金額を足し戻すことで、実態に近い「手元に残るお金」が見えてきます。
銀行の担当者も、融資先の返済能力を確認するときにこの計算をよく使います。専門的なキャッシュフロー計算書がなくても、この数字を把握しておくだけで、銀行との話がずっとスムーズになります。
資金繰りを悪化させる2大原因
帳簿上は黒字なのに現金が不足するケースの多くは、次の2つが原因です。
① 売掛金の回収遅れ
取引先への売上は計上されているが、入金がまだ来ていない状態です。売上規模が大きいほど、この差は広がります。回収サイト(入金までの期間)が長い業種ほど、特に注意が必要です。
銀行の審査では、売掛金の残高が突出して多い場合、「本当に回収できるのか」という観点でチェックが入ることもあります。売掛先の信用力や、回収の見通しをあらかじめ説明できると、担当者の安心感が違います。
② 在庫の過剰積み上がり
売れると見込んで仕入れた商品や原材料が、現金のまま動かずに眠っている状態です。帳簿上は「資産」として計上されますが、現金として使えません。
在庫が多いこと自体は悪いことではありませんが、売れない在庫が積み上がっている場合、銀行から「資産の質」を問われるケースがあります。在庫の回転率(どのくらいの期間で売れているか)は、融資審査でも確認されるポイントのひとつです。
キャッシュフローを改善するための5つのポイント
融資の審査に通りやすくなるだけでなく、日々の経営を安定させるためにも、キャッシュフローの改善は重要なテーマです。
① 毎月、営業キャッシュフローを確認する習慣をつける
月次で数字を追うことで、異変に早く気づけます。銀行担当者に試算表を求められる前に、自分で把握しておくと交渉でも有利になります。「数字を自分で見ている経営者」という印象は、担当者の信頼感に直結します。
② 売掛金の回収サイトを短縮する
取引条件の見直しや、早期入金の依頼も有効な手段です。回収サイクルが短いほど、現金の余力が生まれます。業種によっては難しい場合もありますが、少しでも短縮できれば資金繰りの安定に大きく効いてきます。
③ 在庫を必要最低限に絞り込む
過剰在庫は資金を固定化させるリスクがあります。回転率を意識した仕入れ管理が、キャッシュフロー改善の近道です。「売れる分だけ仕入れる」というシンプルな原則が、資金繰りを大きく変えることがあります。
④ 季節変動や特別支出を事前に織り込む
修繕費・税金・賞与など、ある程度予測できる出費は、あらかじめ資金計画に含めておきましょう。「想定外の出費」を減らすことが資金繰りの安定につながります。銀行への説明でも、こうした支出を織り込んだ計画書は説得力が増します。
⑤ 一定の手元資金(予備資金)を確保する
「万一のとき」を想定した現金の余力が、経営の安全弁になります。銀行の内側から見ても、手元資金に余裕がある会社は、いざというときの融資対応がしやすいという実態があります。月商の2〜3か月分を目安に手元資金を確保しておくと、担当者の安心感が違います。
まとめ|銀行が見ているのは「お金を回せているか」という実態
決算書の利益がいくら良くても、それだけで融資の安全性を判断するわけではありません。銀行が融資審査で確認したいのは、「この会社は本業でお金を生み出し、きちんと返済できるか」という実態です。そのカギを握るのが、営業キャッシュフローです。
長く融資の現場に携わってきた経験から感じるのは、「数字の良し悪しより、お金の流れを自分で把握している経営者の方が、銀行には信頼される」ということです。帳簿の黒字に安心せず、「実際にお金が回っているか」を日常的に意識することが、金融機関から信頼される経営の第一歩になります。
まずは「税引後利益+減価償却費」の簡易計算から、自社のキャッシュフローを確認してみてはいかがでしょうか。



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