銀行の未来は人の育て方で決まる|根性論が通用しなくなった融資現場

銀行員の本音

こんにちは。ワタナベミエです。

銀行で融資業務に携わってきた中で、上司に言われた今も心に残っている言葉があります。

「融資は血を吐くくらい悩んで頑張らないとダメな仕事なんだ」
「顧客に怒られて覚えるのが一人前だ」

私が融資を始めた頃、こうした“根性論”はまだ当たり前のように語られていました。
当時は人員にも時間にもまだ余裕があり、新人をじっくり鍛える土壌があったのだと思います。

修羅場を経験して身につく胆力や、少々のことでは動じない感覚は、融資の現場で確かに役に立ちます。
私自身も、理不尽だと感じながらも、その中で鍛えられた部分があるのは事実です。

ただ一方で、今の現場を見ていると、昔の価値観をそのまま部下や後輩に押しつけることに強い違和感を覚えるようになりました。

時代が変わっても、育て方だけが昔のまま

いまの銀行は、私が新人だった頃とは前提条件が大きく変わっています。

人は減り、一人ひとりの業務は増え、コンプライアンスや説明責任は重くなりました。
お金の流れも多様になり、「銀行で働くこと」のイメージも、昔ほど憧れの対象ではないのかもしれません。

そんな状況の中で、「俺の頃はもっと大変だった」「怒られて覚えろ」といった言葉だけが独り歩きしている場面を、私は何度も見てきました。

時代が変わったのに、育て方だけが昔のまま止まっている。
そこに、いまの銀行が抱える一つの歪みがあるように感じています。

「よく分からないまま続く」ことが一番つらい

若い人たちが次々と辞めていく現場を見ていると、「最近の若者は打たれ弱い」と片づけてしまう声も聞こえてきます。

けれど、実際に話を聞いていると、辞める理由は“仕事が難しいから”だけではありません。

  • 自分の仕事が何につながっているのか分からない
  • 相談したくても、周りが忙しそうで声をかけづらい
  • 怒られて終わりで、「次はどうすればいいか」が見えない
  • 頑張りどころと手を抜くところの境目が分からない

こうした「分からないまま続く状態」が、じわじわと心をすり減らしていくように思います。

本来、銀行の仕事にはおもしろさがあります。
数字がただの数字ではなく会社の物語として見えてくる瞬間や、社長の何気ない一言の裏にある本音に気づけた瞬間。
そうした“仕事の醍醐味”にたどりつく前に辞めてしまうのは、長く現場に携わってきた者として、やはり残念に感じます。

「分かる」体験が仕事をおもしろくする

私が実感しているのは、仕事が急におもしろくなるタイミングには、必ず「分かる!」という瞬間があるということです。

いきなり大口案件を任せる必要はありません。
小さなところからであっても、腑に落ちる経験を積み重ねることで、少しずつ仕事の全体像が見えてきます。

  • 決算書のどこを見ると、その会社の「らしさ」が見えてくるのか
  • 稟議の素案を書き、先輩のコメントで視点が広がる感覚
  • 面談に同席し、雑談に見えた一言にも意味があると気づく瞬間
  • 自分が作った資料が実際に使われ、「役に立った」と実感できた経験

こうした小さな積み重ねが、「仕事が分かっていくおもしろさ」を生み出します。
これは時代が変わっても、変わらない部分ではないかと思っています。

“答えを教える”のではなく、“考える糸口”を渡す

銀行の現場では、「全部教え込む」か「何も教えないか」の両極端になってしまうことがあります。

私が現場で大事だと感じているのは、
答えそのものではなく、“考える糸口”を渡すことです。

例えば稟議を検討するとき、

  • この会社の一番の強みはどこにありそうか
  • もしつまずくとしたら、どういう場面が考えられるのか
  • この融資がうまくいくと、誰にどんなメリットがあるのか

こうした問いを一緒に考えるだけでも、案件の見え方は変わります。

答えを一方的に教えるのではなく、考え方の筋道を共有していくこと。
それが結果として、自分の頭で判断できる人を増やすことにつながると感じています。

人が育てば、現場は必ずラクになる

もう一つ、確信していることがあります。
人が育つと、現場の仕事は必ずラクになるということです。

  • 小口案件を安心して任せられるようになる
  • 情報収集や資料作成が分担できるようになる
  • 案件が回るスピードが上がり、残業も減らせる
  • 一部の人だけに業務が集中し疲弊する構造から抜け出せる

個人プレーからチームプレーへ。
人が育つほど、支店全体の仕事の流れがよくなっていく光景を、何度も目にしてきました。

まとめ:銀行の未来は、人の育て方で変わる

銀行はこれからも変化を求められる業種だと思います。
商品や金利だけで差別化する時代は、すでに終わりに近づいているのかもしれません。

だからこそ、これからの銀行を左右するのは、
「どんな人を、どう育てていくか」という点だと感じています。

仕事のおもしろさに触れられる人が増えれば、職場としての魅力も戻り、支店の力も安定し、お客様にお届けできる価値も高まっていくはずです。

私自身、現場で感じてきた違和感や手応えを言葉にしながら、
少しでも「人が育ちやすい銀行」になる方向に、風を送っていけたらと思っています。

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銀行の現場では、支店長の価値観や振る舞いが、職場の空気や人の育ち方に大きく影響します。
私自身が現場で感じてきたことを、以下の記事でも書いています。

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