値上げしたのにお金が残らない理由|資金繰りが苦しくなる本当の仕組み

経営の盲点

「値上げをしたのに、通帳にはお金が残らない」
現場では、そんな社長の声をよく耳にします。

売上は伸びているのに、なぜか資金繰りは苦しい。
銀行員の立場から見ると、それは決して珍しいことではありません。

本記事(前編)では、「値上げしたのにお金が残らない会社」で何が起きているのかを、
キャッシュフローの仕組みという視点からわかりやすく解説します。
後編では、実例と具体的な改善策、銀行の見方をお伝えします。

銀行の窓口や取引先への訪問の場で、次のような相談を受けることがあります。

「ここ数年で料金を見直して、売上は増えているはずなのに、なぜかお金が残らないんです」
「試算表では黒字なのに、いつも資金繰りがカツカツで……」

その背景には、「値上げ」と「キャッシュフロー」のズレがあります。
まずはその仕組みから見ていきましょう。

値上げでキャッシュが増えない理由

値上げをすれば「売上が増えて、お金も増える」と思われがちです。
ところが銀行の現場では、むしろ「値上げしたのにお金が残らない会社」の方が目立つことさえあります。

その理由は、決算書には見えにくいキャッシュフローの構造にあります。

結論:値上げ=キャッシュ増ではない

結論から言うと、値上げ=キャッシュが増える、とは限りません。
条件によっては、「売上が増えたのにキャッシュが減る」状況すら起こります。

値上げと同時に起きている“3つのズレ”

値上げの陰で、次のようなズレが同時に進行していることが多いからです。

  • 原価(材料費・外注費)がじわじわ上昇している
  • 売上を計上しても、入金は後からやって来る(売掛になる)
  • 一方で、仕入・外注費・給与・家賃・返済などは先に支払う

つまり、「売上は増えているが、入ってくるお金よりも先に出ていくお金が多い」という状態が続くと、
値上げをしてもキャッシュが残らなくなります。

請求 → 相手先の確認・承認 → 入金という流れ

建設業や設備工事業、修理等専門系サービス業では、
サービス提供のあとに
「請求書の発行 → 相手先の確認・承認 → 売上入金」
という流れを踏むケースが多く見られます。

この“確認・承認”のプロセスに時間がかかると、
売上は立っているのに、実際のお金はなかなか入ってこないということが起こります。

売上は増えているのに、預金残高が減っていく現象

ある自動車関連サービス業のケースでは、料金の見直しによって売上は前年より増加していました。
ところが、

  • 部品の仕入単価が上昇していた
  • 外注作業の費用も上がっていた
  • 請求の多くが売掛金となり、入金が後ろ倒しになっていた
  • 毎月の返済や経費はこれまで通り出ていく

その結果、売上は伸びているのに、月末の預金残高はむしろ減っていくという現象が起きていました。

まとめ:値上げは「売上対策」であって「キャッシュ対策」ではない

値上げはあくまで売上高を守るための対策であり、
それだけでキャッシュフローが改善するわけではありません。

むしろ、値上げのタイミングこそ、原価と入金サイト(入金までの期間)の見直しが必要だと覚えておいていただきたいポイントです。

※関連:資金繰り表の作り方と注意点|利益が出てもお金が残らない会社の共通点

原価上昇の影響──値上げ効果が“相殺”される構造

値上げをしてもキャッシュが残らない背景には、
「原価の上昇が値上げ幅を上回っている」という構造があります。

材料費・仕入単価・外注費・人件費……。
これらはいずれもじわじわと上昇しており、
「値上げしても、粗利が増えない(むしろ減る)」会社が少なくありません。

材料費の上昇

自動車関連サービス業であれば、各種パーツやオイル、消耗品。
建築・設備工事業であれば、資材や部材。

こうした仕入価格の上昇は、そのまま粗利の圧迫要因になります。

外注費の増加

作業の一部を外注している場合、外注先も同じようにコスト増に直面しています。
その結果、外注費が上がり、値上げの効果が薄まってしまうケースがよくあります。

人件費の上昇

専門スキルを持つ人材の確保が難しくなっている中で、
給与水準を引き上げざるを得ない会社も増えています。
これもまた、粗利を圧迫する要因となります。

売上は増えているのに「返済原資(償還CF)」が生まれない

原価が上昇すると、次のような状態になりがちです。

  • 売上:増加
  • 原価率:上昇
  • 粗利額: 横ばい~微減
  • 経費:じわじわ増加
  • 利益:微減~減少

決算書だけを見ると「売上は増えているから問題ないのでは?」と見えてしまいますが、
銀行が重視するのは「償還CF(返済原資)=本業で生み出すキャッシュ」です。

粗利率が下がると、償還CFを確保することは難しくなってしまいます。
ここが銀行員としては、非常に気になるポイントになります。

▶ 後編につづきます

後編では、複数の事例をもとにした自動車関連サービス業のケースと、具体的な改善策、そして銀行がどのように判断していたかをお伝えします。

※後編:【後編】値上げしたのにお金が残らない会社の処方箋|改善策と銀行の見方

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