黒字倒産を防ぐ方法|銀行員が見た危険サインと具体策(後編)

経営の盲点

この記事は前編「黒字なのにお金がない理由(前編)」の続きです。
前編では“黒字倒産の仕組み”を解説しています。
後編では、銀行員が見てきた実例・危険サイン・具体的な防止策をお伝えします。

黒字倒産が起きた実例

黒字倒産は特殊な企業だけに起きるものではありません。むしろ、売上が伸びている会社ほど危険度が高いことも珍しくありません。

実務で特に多い3つのパターンをご紹介します。

◆ ケース①:売上拡大で“資金が先に出ていく”成長倒産

ケース①はよくあるパターンです。売上が上がると、仕入・外注費・人件費などの支払いも増えます。しかし、売掛金の入金は1~2か月先です。

売上増加 → 資金流出が先 → 売上の入金が後
このタイミングのズレが大きくなると、黒字なのに資金が不足します。

▼ 現場でよく見る流れ

  • 受注が増え、売上は絶好調
  • 材料費・仕入代金などの支払いが先行
  • 手元資金が一気に減る
  • 「事業は好調なのに資金が回らない」状態へ
  • 銀行に追加融資を依頼
  • 借入負担が増え、返済に耐えられなくなる

成長しているのに倒れる——これが“成長倒産”の怖さです。

◆ ケース②:在庫を積みすぎて資金が寝てしまう

小売・製造・飲食などで多いのが、在庫過多による黒字倒産です。

  • 流行商品を多めに仕入れた
  • 取引先からまとめ買いを求められた
  • 忙しくて在庫管理が甘くなった

在庫が積み上がると、利益上はプラスでも、実際にはお金が在庫に変わって動かない状況になります。

在庫が回転しない期間が長いほど、資金繰りは厳しくなります。

◆ ケース③:借入返済が資金を圧迫する“返済ショート”

利益は出ているのに倒産する企業の中には、借入金の元金返済が重すぎて資金が回らなくなる会社も少なくありません。

  • ある銀行からの借入金の返済を、別の銀行の借入金で賄っている
  • リスケ後に約定返済に戻したことで返済負担が増加
  • 設備投資のための融資返済が想定より重い
  • コロナ融資の返済が本格化してきた

P/L上は黒字でも、返済が毎月キャッシュを奪っていくため、手元のお金が減り続けて倒産してしまうケースです。

銀行員として現場を見ていると、
「決算書上は黒字なのに、手元資金はほぼゼロ」
という会社は意外に多いと感じます。

◆ 実例に共通するのは“お金の動きを見ていない”こと

どのパターンにも共通しているのは、経営判断が「利益=お金」という前提で進められていることです。

👉 銀行が資金繰り表を求める本当の理由
で紹介したように、資金繰り表を作成することで、資金ショートの兆候にいち早く気づくことができるのです。

次の章では、資金繰り表でどのような“危険サイン”が見えるのかを解説します。

資金繰り表で分かる危険サイン

黒字倒産が起きる会社には、資金繰り表を見ると必ず“共通のシグナル”が現れます。決算書では黒字でも、資金繰り表は赤信号を出しているケースは珍しくありません。

銀行員が融資相談の際にチェックするポイントを、実務の視点から解説します。

◆ 危険サイン①:本業のキャッシュフローが常にマイナス

資金繰り表は月の収支を単純化した「財布の実態」です。ここで最も重要なのが、営業活動の収支がプラスかどうかです。

次のような状態が続くと危険です。

  • 売上入金よりも支払い(仕入・外注・給与)が常に多い
  • 売上は伸びているのに、手元資金が減り続けている
  • 運転資金の借入が増え続けている

これはつまり、本業で稼ぐ力より、使うお金の方が多い状態です。銀行から見ると「構造的に資金不足の会社」という判断になります。

◆ 危険サイン②:入金と支払いのタイミングが大きくズレている

資金繰り表のなかで最もわかりやすいサインです。

特に多い例は:

  • 売掛金:入金が月末
  • 仕入:支払いは月初
  • 給料:月末
  • 外注:都度支払い

タイミングのズレが積み重なると、
入金時点では黒字でも、資金ショート寸前という状態になります。銀行は、“いつお金が足りなくなるか”を資金繰り表で把握します。

◆ 危険サイン③:借入返済が資金を圧迫している

黒字倒産の典型が、返済負担に耐えられなくなるケースです。

資金繰り表で以下の状態が続くと要注意です。

  • 毎月の返済額が大きすぎる
  • 元金返済で手元資金が激減している
  • 新規借入で返済を“肩代わり”している
  • リスケ後の正常化で返済額が急増した

利益には表れない返済負担が、資金繰り表では“費用以上の圧力”として可視化されます。銀行員は、営業キャッシュフローだけで返済できているか(返済原資)を必ず確認します。

◆ 危険サイン④:月末残高が毎月減っている(ゆるやかな資金枯渇)

資金ショートは突然起きるのではなく、“月末資金が少しずつ減っていく”のが初期症状です。

  • 月末残高が毎月10万円ずつ下がっている
  • 1年前と比べて手元資金が半減している
  • 売上は増えているのに資金だけ減っている

このような“ゆるやかな減少”は、会社側が気づきにくいですが、銀行は資金繰り表の推移で簡単に気づきます。

◆ 危険サイン⑤:資金繰りが「借入に依存」して成立している

銀行員が最も危険視するのがこれです。

  • 運転資金の借入が毎月必要になっている
  • 借換で延命しているだけの状態
  • 借入実行の月だけ資金が増える
  • 通常月の営業収支は常に赤字

これはつまり、本業では黒字に見えても、実際には“借金で利益を作っている”状態です。この構造が続くと、どこかで必ず資金が尽きます。

◆ まとめ:資金繰り表は“黒字倒産の予報表”

資金繰り表は、決算書よりも正確に会社の“現在地”を示します。

  • 利益は黒字
  • 数字は良い
  • でも資金は減っている

こうした危険サインをいち早く見つけられるのが、資金繰り表です。

次の章では、黒字倒産を防ぐために経営者が明日からできる具体策を解説します。

黒字倒産を防ぐ方法

黒字倒産は、決算書の利益だけに頼って経営判断をしている企業でよくみられる兆候です。しかし逆に言えば、資金の動きを正しくつかめば防げる倒産でもあります。

ここでは、銀行員として現場で見てきた中から、黒字倒産を防ぐために欠かせないポイントを解説します。

◆ ① 資金繰り表を“毎月ではなく毎週”見る習慣をつける

黒字倒産は、決算書では分からず、資金繰り表でこそ発見できます。

特に危険なのは、

  • 月末は資金が足りている
  • しかし月中の支払いで資金が一気に減る

といったパターンです。

社長が毎週資金残高を確認するだけで、
「どの週に、どの支払いでショートしそうか」
が手に取るように分かります。

👉 親記事:資金繰り表の作り方 と併せて見ると、より効果的です。

◆ ② 売掛金の入金サイクルを短くする(タイムラグの改善)

黒字倒産の最大の原因は、入金より支払いが先に来ること(タイムラグ)です。

改善策としては、次のようなものがあります。

  • 前受金(着手金)の導入
  • 入金サイトの短縮交渉
  • 月末締め → 翌15日払いなど条件改善
  • 入金遅延への早期対応

「入金を早める」だけで資金繰りは大幅に改善します。

◆ ③ 在庫を持ちすぎない(回転率の管理)

利益は押し上げても、在庫は現金を封じ込める“寝ているお金”です。

対策としては、

  • 在庫を「売れ筋・普通・滞留品」に分けて管理する
  • 回転率の低い在庫を重点的に減らす
  • 不良在庫の処分を進める
  • 仕入タイミングを見直す

在庫が減ることは、そのまま手元資金が戻ることを意味します。

◆ ④ 借入返済を適正化する(返済原資に合わせる)

返済負担が重すぎると、本業のキャッシュフローが追いつかず資金が減り続けます。

対策としては、次のようなものがあります。

  • 返済期間を延ばして月々の負担を軽減する
  • 複数借入の一本化を検討する
  • コロナ融資など返済開始後の見直し
  • 設備資金の返済を運転資金に依存していないか確認する

銀行は「利益」ではなく、
返済に必要なキャッシュを生み続けられるか(返済原資)
を重視します。

◆ ⑤ 月末資金残高の推移をグラフ化する

資金ショートの初期症状は、月末残高がゆるやかに減少することです。

エクセルなどで月末残高を並べるだけで、

  • 資金が増加傾向なのか
  • 横ばいなのか
  • 減少傾向なのか

が直感的に分かります。

◆ 【重要な補足】赤字だから倒産するわけではない

黒字倒産を理解すると分かりますが、表面上は赤字でも、資金の流れが安定している会社はすぐに行き詰まるわけではありません。

たとえば、次のようなケースです。

  • 設備投資など一時的な費用で赤字になっている
  • 減価償却費により利益が圧縮されている
  • 営業キャッシュフローはプラスで推移している
  • 返済に耐えられるキャッシュが確保されている

このような会社は、銀行としても十分に融資を検討します。

ただし、これは「赤字でも安心」という意味ではありません。赤字が続けば当然、銀行の融資判断には影響します。

誤解してほしくないのは、
“黒字だから安全、赤字だから危険”と単純に判断すべきではないということです。

銀行が重視するのは、

  • 本業で現金が生み出せているか
  • 返済に耐えられるキャッシュフローがあるか
  • 資金繰りが継続できる構造になっているか

という“継続的なキャッシュフローの力”です。

◆ まとめ:会社を守るのは“利益”ではなく“現金の流れ”

黒字倒産は、利益とお金のズレへの理解不足から起きます。

逆に言えば、資金の動きを正しく把握し、返済とキャッシュフローをコントロールしていけば、倒産リスクは大きく下げられます。

銀行員として最も強調したいのは次の一点です。

“倒産理由の多くは、赤字ではなくお金が尽きること。”

ここを押さえておくことで、経営判断の精度は大きく変わります。

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